LAB II

3Dプリンター造形にしかできない特殊形状により、
今までにない広大な音場を実現。
大口径のダイナミック型ドライバーユニットをオープン型で使用すると、低域高域とも周波数レンジを伸ばすのが難しく、帯域の広がりに限界がありました。LAB IIではメカニカルイコライザーを3Dプリンタで造形することで今までの製造方法では不可能であった形状を実現し、高域特性を改善しました。
背面をフルオープンとし、前面の音導管が振動板前後の干渉を防ぐ事で、低域特性も改善。筐体外側に施された
メッシュ形状によって、耳道と筐体間に僅かな隙間を生じさせる設計とし、閉塞感の無い自然な音場を実現しています。
音を追求した結果としての特殊形状を、3Dプリンタが実現しました。
AWARD
VGP 2017 Summer
Life Style
2017, Japan
VGP 2017 Summer
Life Style
2017, Japan
3Dプリンンタ造形によるチタン製筐体
原理試作を重ねた結果、目指す生々しく広大な音場を実現するためには、筐体には下記のような条件が必要でした。

・ 振動板前面にメカニカルイコライザー
・ ドライバーユニット背面は開口率の高い形状
・ 耳道と筐体間に隙間が必要

上記、原理試作の結果を基にメカニカルイコライザーの最適な形状をシミュレーションすると、3Dプリンタによる造形でしか実現できない事がわかりました。しかし、金属による3Dプリンタ造形で複雑な形状を出力するには、造形への深い
知識とノウハウが必要です。プリンターという名称から、3Dデータをプリンターへ送れば、ボタン一つで完成するという
イメージがありますが、実際にはそういう訳には行きません。金属積層造形3Dプリンタは、平坦にされた平均粒径20μの
金属粉末にレーザーを照射し、熔解して造形。その上に金属粉末を高い精度でかぶせ、同工程を長時間繰り返し、造形
します。そのため、造形中の熱による変形を考慮した形状でないと、高い精度が出せないのです。設計者が描いた3Dデータを、造形のためのデータ、形状に描き直す必要があるのです。しかもそれは一定の方法によるものではなく、テストピースを造形し、そのデータを加味した上で形状を決定する必要があるのです。

今回、株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ(以下NDES社)の協力を得て、最薄部が0.2mmにもなるメカニカルイコライザーを造形する事ができました。表面を覆うメッシュ形状は、NDESのエンジニアが音質面で必要な条件と、放熱を含む高精度の造形に必要な条件を全てを勘案し、最適な形状を割り出したものです。外側のメッシュ形状は、音質面からの要求以外に、造形の精度を高めるための形状でもあるのです。

最適な形状を割り出すために、NDES社と私達のエンジニアがアイデアを出し合いながら、幾度となくモデリング、造形を繰り返しました。その過程では、言語化しにくいノウハウも多く必要でした。3Dプリンタがあれば職人技術は必要ないか
のように言われています。しかし実際には、金属積層型3Dプリンタによる造形はまさに「3D造形職人」と呼べるエンジニアが存在して初めて使える技術となるのです。身近な製品に金属積層型3Dプリンタによる造形物が見当たらないのは、金属積層型3Dプリンタによる造形は、細かなノウハウの塊だからなのです。
<表面処理>
3Dプリンタによる造形の問題点は、もう一つあります。表面の粗さです。チタンの粉末は平均粒径20μと極めて
小さいのですが、直接耳に入れるには痛みを感じる表面の粗さです。一方で、内部のメカニカルイコライザーは、
表面が適度の粗さがあった方が音質的に有利です。表面の粗さを場所によって変化させるという困難な問題を
解決するために、化学メーカーと共同で試作を繰り返し、3Dプリンタ造形後のチタンの表面処理仕上として、
最適な処理方法を見つけました。外部は滑らかに、内部は適度な粗さを残して化学処理を施す。同時に高い寸法
精度を維持するという困難な仕事でしたが、長い時間をかけてやり遂げる事ができました。そのおかげで、
外部の光沢仕上げは、チタンの3Dプリンタ造形品としては、現在世界最高レベルの平滑度となっています。
メカニカルイコライザー一体型筐体
振動板に適切なプレッシャーを与える事で過度特性の改善を図るためと、干渉による高域特性の低下を防ぐための
メカニカルイコライザーを振動板の前面に配置しています。音の出口となる同心円状のイコライザーの板厚、
ギャップ共0.2mm。この形状は3Dプリンタにしか出来ない加工です。原理試作に基づいたシミュレーションの上、
多くの試作―測定―試聴を繰り返す事で、目的を達成する最終形状を見つける事ができました。
高い開口率のメッシュ形状
開口率の高いメッシュ形状は、必要十分な低音と音場の広がりに貢献しています。この形状を定めるための必要条件は
幾つもあり、最適値を求めるのがメカニカルイコライザーと同様、非常に困難でした。
考慮しなければならない条件は下記の通りです。

・ 音質
・ 必要な開口率の確保
・ 3D造形時の熱変形
・ 化学研磨による溶解時の開口率の安定度
・ MMCXコネクターを使用するための十分な強度

これらの条件全てを考慮した上の形状が、外から見えるメッシュの奥にもう一つ別のメッシュ形状が隠れている、
二重メッシュなのです。
15mmφ新開発ダイナミック型ドライバーユニット
オープン型イヤホンによって、生々しく、広大な音場を実現するというコンセプトのために、15mmの直径を持つ
ダイナミック型ドライバーユニットを新たに開発いたしました。ネオジム磁石と共に磁気回路を構成するポールピース、
ヨークの材質には、試聴の上で純鉄を採用。ギャップの磁束の密度と平行度を上げるシミュレーションと
試作を繰り返した結果、ヨークは大きな曲面を持つ他には無い形状となりました。不要な振動を抑えるために、
フレームは強度の高いアルミマグネシウム合金からの切削品。生々しい音のためには、イヤホンの振動板は軽量である事が最優先されるという考えの元、一般的には12μ以上の厚みが使われるところを、極めて薄い6μ厚のPETを
採用しています。社内に振動板の成形やボイスコイルとの接着等、生産技術に関するノウハウを保有しているため、
これほど薄くて製造が困難な振動板を採用する事ができるのです。
本体の組立だけでなく、ドライバーユニットの製造も川崎本社内にて行っています。完成したドライバーユニットを
124段階にレベル分けを行い、使用するのは一部のみ。使用するドライバーユニットも厳しい選別、
左右のペアリングを実施しています。
MMCXコネクタ+シルバーコートケーブル
コネクターにはスイス有名メーカーの高精度MMCXを採用。
音場に広がりを与える高純度OFCシルバーコートケーブルは、信号の伝送速度を追求したスーパーコンピューター
「京(kei)」用のケーブル開発、製造している事でも名高い潤工社との共同開発品です。絶縁被膜には潤工社が
ジュンフロンブランドで多大のノウハウを持ち、最も誘電率の低い素材である素材PFAフッ素ポリマーを使用。
外被には、柔軟性を高めるためにPVCを採用。驚きの柔軟性を実現し、極めて使いやすくタッチノイズも起こしにくい
ものになっています。また、断線を起こしやすいMMCXプラグ部分や3.5mmミニプラグ部分については、
通常5千回程度の屈曲試験で合格とするところを、5万回以上の屈曲試験に耐える仕様としています。

※潤工社:ふっ素ポリマーを軸として、光速の95%という世界最速の伝送速度を誇る高速同軸ケーブルや海洋宇宙分野、
医療分野、発電所内のケーブル等、高い技術力が必要な特殊ケーブルを開発、製造しているのが日本の潤工社です。
潤工社のケーブルはジュンフロンというブランド名で呼ばれる事が多く、特殊用途のケーブルを必要とする
エンジニアからは、絶大な信頼を寄せられています。

※スーパーコンピューターで使われているケーブルの全長は1,000km以上にものぼり、電子が半導体内部を流れている
時間より、ケーブル内を流れている時間の方が長くなります。ケーブルの伝送速度がスーパーコンピューターの速度の
ボトルネックとなるため、多額の開発費用をかけて伝送速度を追求しています。
精度を追求した自社工場生産
LAB II本体の組立は川崎の本社内で行っています。組立の精度は、部品の精度と共に、組立を補助する
治具と呼ばれる道具の精度に左右されます。治具の部品精度の僅かなばらつきを、組立てながら微調整できるよう、
生産治具や測定治具の設計、製造も内製化しています。治具の製造から、製品組立まで一貫して自社で行うことにより、
高い品質を維持しています。

注:製品の音導管にはメッシュフィルターを装着しています。
スペック
型番
FI-LAB02
筐体
3Dプリンター造型64チタン 磨き仕上
ドライバー
15mmφダイナミック型
コネクター
MMCX
感度
110dB
インピーダンス
22Ω
質量
31g
コード長
1.2m
付属品
真鍮製キャリーケース、交換用粘着剤付ダストフィルター
装着方法
ブッシュにあるL(左)、R(右)の表示にて左右をご確認ください。本体を持ち、少しねじるように押し込んで、
両耳に装着します。 音楽を再生しながら、片方づつ指で本体を立体的に動かし、最もバランスの良い位置に
合わせて下さい。耳道とイヤホンの間に少し隙間がある位が適当な装着となります。少し外し気味の装着の方が良い方も
おられるでしょう。左右で位置は異なる場合もございます。音場が広く、低音が強すぎない自然な音がすれば、
それが最適位置(ベストポジション)です。最初は設定に時間がかかりますが、聴感や装着感を身体が覚え、2回目からは容易に最適位置にイヤホンを装着する事ができます。

※L(左)のブッシュ内側に左右識別突起がありますので、暗い場所でも手探りでL・Rの判別が可能です。
※LAB IIは設計上、装着位置によって、大きく音質が変化します。
※通常、耳の形状は左右でかなり異なります。そのため、最適位置は左右の耳で異なります。
音質レビュー
全帯域にわたってスムースでしっとり優しいサウンド。圧倒的なワイドレンジとイヤホンには出しづらい前方定位が特徴的です。ぜひ楽器やボーカルの『空気感』に着目してみてください。きっと驚くような生々しさが目の前に広がります。
ユーザーレビュー
ホールで音楽を聴いているような広い音場感でオーケストラ楽曲との相性はバツグンに良かった。柔らかい音でジャズにも適していると感じました。音楽の生演奏を聴いているような臨場感を楽しめるイヤホンという印象を受けました。仕方ないとはいえ、あとは値段だけが唯一の問題。総じてバランスが良く、素晴らしいイヤホンでした。
(20代/男性)
耳にきちんとセットできるか不安でしたが、全然大丈夫でした。ぴったりフィットします。
左右がわかりにくかったです。
低音域がしっかり出て、スッと引く感じがしました。聴きやすいです。(振動板が薄いせいでしょうか?)
当たり前ですが、音漏れがすごいです。
ふだんF3100を使っていますが、(比べてはいけませんが)ダイナミックのこちらも素晴らしいです。
(30代/男性)